「シャボン玉」「証城寺の狸ばやし」などで知られる詩人、野口雨情が残した直筆の掛け軸を、 所蔵の保田かほるさん(市内御坊)宅で見せていただいた。 昭和14年、 「御坊小唄」 作詞のため来坊したという
 ◆保田さん宅は元保田楽器店。 27年前、 創業100周年を区切りに幕を閉じた。 雨情が滞在した時期は先代店主、 故保田信郎さんの代。 本紙2面連載の中西忠さんの随筆でも、 私費で著名な音楽家を呼んで御坊公演を開くなど地域文化の振興に尽くした信郎さんのことが紹介されていた
 ◆掛け軸の言葉は 「雲に隠れて雨ふり月は/浜の苫屋の窓のぞく」 とお聞きした。 最初の文字は雨かんむりではなく「日」が上になっているようだが、「曇」を 「くも」と読ませたのだろう、 と解釈していた
 ◆先日、本紙で「弓庵つれづれ書画話」連載の書家、 弓場龍溪さんが掛け軸の写真を見て「1字目は 『暈 (かさ)』 ではないか」と教えてくださった。あっ、と思った。 薄雲に覆われた月の周囲に、 淡い光の円が見えることがある。 それを 「月がかさをかぶった」 と表現する。 その場合のかさは「暈」と書く。「かさ」は「傘」 「笠」に通じる。擬人化されて笠をかぶったお月さんが窓をのぞく図がユーモラスに浮かび、 なんだか 「小唄」 らしい雰囲気になってくる。 かさをかぶった雨ふり月ということは 「狐の嫁入り」 の夜版のような、 おかしな空模様なのだろうか。 ぐっと風情が増すようだ。 さすがは大正ロマンの詩人と感じ入った
 ◆70年の時を超え、 詩人の心と御坊の文化史とに思いを馳せるいい経験となった。 保田さん、 ご紹介くださった中西さん、 ご指摘くださった弓場さんにあらためて感謝申し上げたい。   (里)