昨年3月の東日本大震災をきっかけに、全国的に防災意識が高まっている。沿岸部の各自治体では災害に強い地域づくりを掲げ、公共施設の高台移転などの対策を打ち出している自治体もある。しかし、いくら行政側で防波堤の建設や避難路の整備などを進めても、肝心の住民が「自分の命は自分で守る」という意識を持たなければ始まらない
 ▼先月30日に発表された南海トラフのシミュレーションでは、最悪で県内で8万人の死者が発生するという。だが、この数字は住民が早期に避難するかどうかで大きく変わる。死者が8万人となる条件は発生時間を冬場の深夜に設定。言い換えれば気温が低く、行動を起こしたくない状況で、早期避難が低下した場合だ。避難する時期が遅れると命に直結することもある
 ▼しかし、災害被害の発生が予想される状況で、地域の消防団らが避難を勧めて各家庭を回っても、中には「避難しない」という住民もいるそうだ。例えば、水害時では「もしもの時は家の2階に上がるので大丈夫」などと理由を付けて拒否するケースもあるという。心理的な理由はよく分からないが、「自分だけは助かる」という気持ちが働くのだろうか
 ▼先日、みなべ町で昨年の台風12号の被害を振り返える「防災の集い」が開かれた。席上ではパネルディスカッションが行われ、水害を目の当たりにした4人がパネラーを務めた。災害に対する備えで1人のパネラーが「早めに避難すること。切羽詰まってから避難するのは難しい」と言った。これはいままでも言われてきたことだが、命を守る最も有効な方法だ。防災は避難をためらうことなく、瞬時に行動に移すという住民の意識改革から始める必要がある。       (雄)