「ようやく台風前の頃のように戻ってきたと感じます」。日高川町皆瀬でガソリンスタンドを営む㈱旭屋の代表、池本純一さん(41)。帰ってきた風景、日々の暮らしにホッと胸をなで下ろす。
 日高川の氾濫でスタンドは完全に水没した。家族とともに避難していた池本さんは、水が引いてスタンドに戻ってみると、被害の大きさにがく然。店舗兼事務所は建屋だけが残っている状態で、防火塀も倒壊。5つあった最新式の計量器はすべて破損した。地下にあったタンクには泥水が入り込み灯油とハイオクガソリンがダメになり、車両、重機も使えなくなった。
 「これからどうしよう」と途方に暮れたが、祖父の代から3代目。「長年にわたって地域の人に支えられてきたスタンド。頑張ろう」との思いから従業員の協力のもと、その日から営業を再開した。辺り一体は壊滅的被害で、一刻も早い被災者支援と災害復旧が求められる中、兼業のガス、水道業務に取り掛かり、翌日から無事だったレギュラーガソリンの販売をスタート。各種機器が故障のため、汗と泥にまみれながら手動で汲み上げタンクローリーで量り売り。事務所は倉庫を活用した。
 町内では台風で60事業所が被災。被害額は17億円以上。依然として製造、飲食宿泊の2業者は再開のメドが立たない。町等の各種支援はあるものの、復旧費用は事業者にとって大きな負担で、再開した事業所も規模縮小や移転を余儀なくされたり、車両や設備、機材がそろっていないところも多い。
 池本さんは、費用の1割程度を県からの補助で補った。泥水が入ったタンクは危険を伴いながらも自ら洗って再び使えるようにし、計量器は中古品。車両、重機も格安で譲ってもらったり、修理して徐々にそろえた。事務所の復旧に伴いほぼ通常通りの営業ができるようになった頃には桜が咲いていた。
 あの悪夢の日から間もなく1年。「何も考えずにひたすら突っ走ってきました。被災当初はこんな日が来るとは思いませんでした」と振り返る。重機が不足、車両も故障寸前と心配は尽きないが、復旧を手伝ってくれたボランティアの厚意や地域の人からの「ありがとう」という感謝の言葉が胸に染み、被災を通してあらためて人々の温かさと地域の支え、仕事のやりがいを感じた。
 「いらっしゃいませ。レギュラー満タンですか」。スタンドでは、1年前に一度は消えた池本さんの大きな声と笑顔があふれている。