市民教養講座で、「戦場カメラマン」 としてテレビ等でおなじみの渡部陽一さんの講演を聴いた。 独特のゆっくりした口調、 抑揚ある話し方。 内容が心の深みにまで届くスピードである。
 この生き方を選んだそもそものきっかけは、 20歳の時に遭遇したルワンダ紛争。 ピグミー族に会いたいという素朴な憧れの旅だったが、 銃を手にした子ども達に襲われ、 カメラも財産も奪われた。 その経験が心に与えた衝撃の大きさは察するに余りあるが、 人生の針路を本当に決めるのはそのあとのことだ。
 
 帰国後、 家族や友人に強烈な経験を必死で話した。 しかし言葉だけでは誰にも理解されない。 日本の日常とはあまりにも違いすぎる。 「それなら」 と、 昔から好きだったカメラを使い、 言葉ではなく現地の姿をありのままに写して見せることで、 一人でも多くの人に伝える道を選んだ。 言うほど簡単なことではない。 生命の保証すらない仕事だ。 それでもそうせずにはいられないほど、 「自分1人が知っているだけではダメだ!」 との思いは強かったのだろう。 まだあどけない顔をした子どもたちが学校へも行かず、 銃を手に戦う術だけを教えられている。 今も地上のどこかにあるそんな悲しい現実を、 どうにか変えられないのか、 と。
 バラエティ番組出演等も含め、 渡部さんの活動はすべて、 戦場の子ども達について多くの人に知ってほしいという願いから発している。 世界の情勢などは、 日本の日常とは無縁に思われるかもしれない。 だが時代に共通する空気というものは必ずあり、 離れているようでもどこかで影響し合っている。 どんなことでも、 知ることはつながることへの第一歩になる。    (里)