大成中・南部高校出身、劇団「波」の女優岡本博子さんのふるさと公演「啄木の妻 節子星霜」を取材した。非常に意義深く、得るところの大きい舞台であった◆岡本さんは2幕2時間半の物語を、たった一人で演じる。結婚への理想に燃える19歳の節子から、苦闘の日々の思い出をかみしめる28歳の節子まで。はつらつと張りのある声音と演技力によって、そこに見えていない人物の存在を浮かび上がらせる。憧れ、慕い、勝手な行動に泣かされ、怒り、和解し、真摯な姿勢に触れて愛情を取り戻し、信頼する。同じ年の夫、歌人石川啄木の存在を◆借金を重ねては放蕩していた啄木は、実生活の苦しみを味わったのち「文学とは高尚なものではなく、日々懸命に生きる人たちが心の栄養として求めるもの」との信念を持つに至り、それを実践。「はたらけど/はたらけど猶わが生活(くらし)楽にならざり/ぢっと手を見る」「ふるさとの山に向かひて/言ふことなし/ふるさとの山はありがたきかな」など今も多くの人に愛される歌を残す◆当地方にもゆかりのある「大逆事件」に啄木が関心を寄せていたことは、今回初めて知った。芸術家の鋭敏な感性が、時代の不穏な風向きを捉えたのだろうか。当局に発表を禁じられた論文は、節子が日記や他の遺稿と共に守り抜き、友人に託す。節子は夫の死からわずか1年永らえただけで後を追うように亡くなったが、その間の仕事がこの非凡な歌人を現代まで生かすこととなった◆100年の時を超えて伝えられた、夫婦の愛の物語。大成中の同窓生の皆さんと岡本さんのご縁のおかげでこの舞台に出会えたのは、当地方にとって幸せなことだったと思う。      (里)