日高地方唯一のアマチュア劇団RAKUYUの第9回公演が今月10日午後7時から、市民文化会館で上演される。演目は「夕鶴」。民話「鶴の恩返し」を芸術にまで昇華させた、木下順二の名作だ。戦後、人々が生きることに必死だった時代に初演され、「一人一人の心を洗うよう」と絶賛された◆学生時代、友人に演劇部員や映画研究会員がいて、公演や自主映画上映会によく出かけた。演劇部の公演会場は、熱演する役者の草履が筆者の膝の上に飛んでくるような小劇場だった。正直、情熱は認めるが意味のよくわからない作品も数多かった。だが、あの熱い雰囲気は懐かしい◆「道成寺 宮子と道成ものがたり」「奇跡の人」「アリマ」などRAKUYUが披露してきた公演は、学生劇団の熱い自己主張ばかりみなぎる舞台とはもちろん歴然と違う。社会経験を重ねた大人としての感性に支えられ、観客と分かち合える大きな感動を目指す舞台だ。その核には、舞台上に世界を生み出す創造への情熱がある◆社会人になると、仕事と家のこと以外に何らかの活動を続けるのはなかなか難しくなる。ライフワークと呼べるほどに活動を充実させるため必要なものは何だろうか。時間、それに心のゆとり。しかしゆとりだけでは駄目なのだ。情熱がなければ、物事は続けられない◆「おかね」を理解できない無邪気なつう。素朴で自分の気持ちに正直な与ひょう。儲け話を見逃すまいとする現実的な惣ど。欲と人情の間で揺れる運ず。今回は照明等をシンプルに、登場人物の存在感を出すという。おなじみの作品を「どう」表現するかが劇団の腕の見せどころ。1人でも多くの人にRAKUYUの「夕鶴」を観てもらいたいと思う。    (里)