「お客さんあっての私たち。悲しいことはあったけど、明るく前向きにいかな」。中尾冨宏さんと町子さん=皆瀬=は11月下旬、冨宏さんの祖父の代から100年近く地域の酒屋さん、米屋さんとして親しまれてきた中尾商店の営業を再開した。3カ月近くの休業はあったが、「やっぱりこの土地が好き、このまちの人が好き」。少しでも地域の人たちのためになるならと濁流でめちゃくちゃになった店舗を夫婦二人三脚、全力で復旧させた。
 皆瀬地内は最も被害の大きかった地域の一つ。水害が起きた3日夜は、身の回りの物をまとめて対岸の山開センターへ。水かさがどんどん増してきたため、さらに川原河小学校に移動し、その後は学校敷地内に停めた車の中で眠れぬ一夜を過ごした。翌朝になって自宅へ戻ると、自宅兼店舗の前を通る道路が流木やがれきの山でふさがっており、店内は冷蔵庫がひっくり返り商品は泥まみれ。無残な光景を目の当たりにした時にはショックが大きく、すぐに片付ける気にはなれなかった。
 しばらくして親戚が来てくれ、復旧に取りかかった。町子さんの実家、原日浦に仮住まいしながら約1カ月間、朝から晩まで無我夢中で泥のかき出しや商品の整理に汗。ボランティアにも手伝ってもらい、床や棚を何度も雑巾がけした。家や店がきれいになるにつれて気持ちも落ち着き、ぼつぼつ来店してくれる客の求めに応じて仕入れを再開。11月中旬には、やめようと思っていた精米所も復旧させた。「片付けの手伝いだけでなく、(中身は無事の)泥まみれになった商品を買ってもらったり精米機を直してもらったり。本当に助かりました。年内に再開できるなんて思ってもみなかった」。いまは店舗で客を迎えるたび、多くのサポートへの感謝がこみ上げてくる。
 今後は売り上げより被災者が地元を離れて寂しくなっていくのではということが一番の心配。「一人暮らしのお年寄りが住み慣れたこの土地を離れずに済むような支援をしてあげてほしい」と願う。店舗には「みんなを明るくしたい」と浸水を免れたクリスマスイルミネーションの飾りつけを4、5年ぶりに復活させ、「困ったときはお互いさま。頑張ってよ、頑張ろらよ」と明るい声を響かせる。