この季節、作品展などを鑑賞する機会が多い。市内大浜通りの和風小物工房「宮子庵」恒例の作品展では、地元作家の作品展も同時開催。今回は前川芳輝さん(61)=北塩屋=の木工展だった◆木工細工ときいてなんとなく素朴で頑丈そうな作品を想像したが、実際はまったく違った。黒檀やヒノキ材の衝立、古風なからくり箱など格調高い細工物が並ぶ。ハンドルを回すとはばたくチョウやトンボは、美しい翅脈も再現。指先ほどのミニチュア下駄は、目を凝らすほどに繊細なつくり。ちょっと乱暴にさわると壊れかねないので「本当はあまり展示したくはない」と笑っておられた◆2㌢ほどの竹とんぼは指できりきりとうまく回すと、ちゃんと飛ぶ。通常の大きさの竹とんぼも前川さんが飛ばしてみせてくれた。竹とんぼがこんなに優雅な動きをすると初めて知った。舞い上がり、宙でフワッと跳ねるような動きを見せて安定する。自然界の物理的法則にのっとった動きの美しさに見とれてしまった◆最も印象に残った展示品は、小さな木製の鎖。細い環が幾つもつながっているが、どこにも継ぎ目がない。種も仕掛けもなく、単に一つの木からその形の通り彫り出したもので根気の賜物だというが、そう聞いても一体どうしてそんなことが可能なのかさっぱりわからない。今も時折思い出しては考えている◆アイデアの実現に必要なのは正確で精密な作業と、一連の作業を完了までやりおおせる根気だ。昔読んだ「手仕事の日本」(柳宗悦著、岩波文庫)を思い出した。各地の精巧な民芸品を紹介し、細やかな手仕事が日本という国に如何に大切か説いていた。巧みな技術だけでなく、それをやり遂げる根気の中に底力が育つのだろう。  (里)