「うちのカミさんがね...」の決めゼリフ、モジャモジャ頭にヨレヨレのレインコート。日本でも多くの人々に愛されたアメリカドラマ「刑事コロンボ」のコロンボ警部役ピーター・フォーク氏が、先月23日に他界した◆社会的地位の高いエリート犯人を、風采の上がらないコロンボが人懐っこい笑顔に隠された鋭い洞察力で追い詰める心理戦が見どころ。同情の余地のない身勝手な犯人には、捜査途中で相手の目をじっと見つめて「この犯人だけは許せませんな」と言い放ち、背後にやむにやまれぬ事情があった場合は時としてさりげない思いやりを見せる。破産寸前だったワイナリー経営者には逮捕の前に上等のワインを一杯振る舞い、フォーク歌手には警察へ向かう車中で彼のヒット曲をかけて「これだけの歌を作ったあんただ。またいい歌を作ってあたし達を楽しませてくださいよ」と力づける◆家には小説版コロンボが40冊ばかりあり、半分は亡父が買ったものである。日本史の教師だった父は大のミステリー好きで、家で歴史の講義などきいたことはないが推理小説の系譜を1時間ばかり解説されたことがある。閃きで推理する天才型の探偵より、現場に出向き自分の手足と五感で真相に迫るコロンボタイプが好きだと言っていた。15年前に他界したが健在なら今月7日で85歳、享年83歳のフォーク氏とほぼ同年代であった◆眩しそうに目を細める、幾分はにかんだ笑顔。その表情に弱者への思いやり、武士道でいう「惻隠(そくいん)」の情が垣間見られることが、日本でも爆発的にヒットした理由の一つではないかと思える。時を超え、国を超えても人々が心の奥底で求める価値観には普遍のものがある。   (里)