和歌山県の異称「紀の国」とは「木の国」を意味する。県土の7割以上が山林である地にはふさわしい名である。7世紀には「木国(きのくに)」だったのが、713年に国名を定めた時「紀伊国」としたそうだ。5月22日、この「木の国」の田辺市で第62回全国植樹祭が行われる◆当日は参加者にどんぐりの苗木ポットを配布するが、そのポットは竹で製作。先日、市内熊野で材料の伐採から作業が始まった。県の緊急雇用創出事業も活用され、県森林組合連合会が作業を請け負っている。作業していた人から「竹もこれだけ密に茂るとタケノコすら生えない。今回800本ほど伐るから、春にはタケノコも生える」ときいたのが印象的だった。増えすぎた竹を伐り広葉樹を増やすことは山の再生につながる◆帰化植物モウソウチクの急激な成長は全国的な問題。当地方では、野鳥研究で知られる故黒田隆司さんの懸念の言葉を聞いた元小学校教諭の北野久美子さんが「里山を愛する会」を発足、各地の放置竹林で伐採を行っている。地道に精力的に活動を続けていることにいつも頭が下がる◆竹は保水力が弱く、豪雨で地すべりが起こりやすい。竹林の代わりに雑木林が甦れば土壌も強くなり、生態系が育まれる。豊かな山さえあれば、野生動物が人里に下りる心配もなくなる。人が手を加えることで、現在の悪循環をプラスの方向に転換できる◆民間団体の手では作業の規模にも限界がある。県内は民有林が多く難しいかもしれないが、行政機関が効率的に取り組むべき課題と思われる。今回の県による竹ポットづくりは、小さいようで大きな一歩のように思う。豊かな深い緑と清い水はこの国の命であり、それが維持できなくなるとこの国は荒れる。そんな気がしてならない。  (里)