うつ病の原因は生活環境の変化や人間関係による精神的ストレスのほか、他の病気や薬の副作用で2次的にうつ病を引き起こす場合がある。だれもがなる可能性のある身近な病気とはいえ、患者自身が初期症状でうつ病に気づくケースは少なく、さらに自ら「精神科」という病院や診療所へ行くというのは抵抗感が強い。今週からは2回に分けて、体の変調からうつ症状をきたした男性のケースを紹介する。  
 市内の会社員Kさん (39)は、寝不足が続いたり疲れがたまると、瞬間的な吐き気やめまいの発作が起きる珍しい持病がある。子どものころから症状はあったが、医者にかからなくてもいつのまにかよくなくなるので、原因が分からないまま大人になり、とくに気にしていなかった。
 24時間、呼び出しがあれば真夜中でも現場へ急行するという仕事が5年ほど続いていた27歳のころ、久しぶりに発作が起きた。
 「またか」ぐらいの気持ちで仕事を続けていたが、発作は徐々に回数が増え、眠りが浅くなり、食欲も落ちてきた。ある日、Kさんは夜中に走った現場で座り込んだまま立ち上がれなくなり、「こらアカン」と市内の総合病院の内科を受診した。
 その症状に医師は首をかしげ、ひと通りの検査をしたがどこも異常はなし。気休めの薬も発作はおさまらず、さらに苦しくなったKさんは会社に休みをもらい、検査入院を願い出た。4、5日かけて全身の検査をしたが、結果はやはり「どこも異常はありません」。そこで初めて精神神経科の受診を勧められた。
 精神科のベテラン医師は、Kさんの話を聞きながら「はいはいはい」と食い気味にうなずき、首をかしげるばかりだった若い内科の医師とはあきらかに違う。脳波をとり、その波形を見た医師は「やっぱりね」。同じ病院の医師でも専門が違うとこうも差があるのか...。その軽いどや顔にKさんは救われた。「寝不足が一番いけない」と、発作を抑える効果のある薬を処方された。
 原因不明の吐き気とめまいは、その薬でうそのようにぴたりと止まった。が、苦しい発作のストレスにより、精神と肉体の機能面の調子がおかしくなっていた。Kさんは「そのときは発作の2次症状として、うつ病になっていました」と振り返る。