20105014-1.JPG  田舎暮らしの移住先としての人気が高い日高川町、山と川の大自然の懐に抱かれた旧中津村の佐井地区には、農業体験希望者が利用できる民間の小規模宿泊施設、 「風呂谷ビレッジ」があり、家族連れや将来の定住を考える都会の若者らがオーナーの柏木政祐さん(67)の指導を受けて環境にやさしい米や野菜作りを学んでいる。山村地域の滞在型余暇活動のグリーンツーリズム、その拠点ともいえる施設は「農家民泊」と呼ばれ、地元の人らとの交流から定住へとつなぐ過疎対策の大きな役割も担っている。中学を出て、 和歌山市内の工業高校に進んだ柏木さんは大学卒業後、 都会でサラリーマンをしながら、 趣味の海外旅行を楽しんでいた。 行く先々でその国の歴史や文化を学ぶうち、 「ガイドブックを見て回るだけでなく、 自分の言葉で現地の人と話をしたい」 と思うようになり、 35歳のときにはフランスに語学留学。 その後、 いったん帰国したあと今度はイギリスに渡り、 半年間、 ホームステイで英語を勉強した。 37歳で帰国後、 公害監視の大気測定をする会社に勤め、 56歳で退職。 いまから11年前、 約40年ぶりにふるさと佐井へ戻ってきた。
 以前の仕事柄、自然環境や食べ物への関心が強く、近所の農家の仕事を手伝いながら、有機肥料を使った野菜の栽培、米作りを開始。 また、海外の旅で世話になったホームステイ先やユースホステルをイメージし、 古い自宅を建て替えたあと、 すぐ近くに農業体験希望者のためのログハウスも建てた。 利用者は自炊しながら、 柏木さんから農業を学ぶことができ、 17年2月から家族連れや小学生、 本格的に農業を勉強したいという人の受け入れをスタート。 日高川町の体験観光を提供するゆめ倶楽部21が窓口となって、 長期では1年間利用する人もおり、 じっくりと農業の基本を学んだあとに日高川町内や印南町に移住した人もいる。
 2年前の20年3月には流し台、 風呂、 トイレを増設し、 正式に業としての旅館の認定も受け、 現在、 県内に44カ所ある農家民泊施設の中でも珍しい、 農家とは別棟の自炊型宿泊施設 「風呂谷ビレッジ」 がリニューアルオープン。 読み方は 「ふろんたにビレッジ」 で、 これは近くにある 「風呂ノ谷池 (ふろのたにいけ)」 を地元の人が 「ふろんたにいけ」 と呼んでいることから名付けたという。 一日最大4人が利用でき、 寝室は1階と中二階のロフトに分かれて2人ずつ寝る形。 食堂のほか図書室、 くつろぎの共有スペースもあり、 談話室はインターネット回線もある。
20105014-2.JPG 風呂谷ビレッジでは天日乾燥の米作りを中心に、かぼちゃ、トマト、ナスビなど季節の野菜を常に栽培しており、1年中、いつでも農業を体験できるのが特長。このゴールデンウイークにも都会から一般の男女2人が訪れ、ウスイエンドウの枝が倒れないよう、支柱にビニールひもを張り巡らせる作業などを体験。作物はどれも将来の無農薬化を目指した減農薬栽培で、その分、草むしりなどの労力は大きいが、田植えや稲刈りなどの観光体験だけではない日々の地道な農作業を体験できる。物干し台に立てかけた手書き看板が味のある 「第一農園」 では、 昨年から初めてのニンニク栽培がスタート。これまでのところ、 イノシシなどに荒らされることもなく、順調に育っているという。
 町や県の田舎暮らし推進事業にも積極的に協力している柏木さんは、「私の一番の目標は地域の活性化です。この過疎化が進むふるさと日高川も、外から来た人に定住してもらえれば、高齢化と後継者不足で増加している遊休農地、空き家の解消になり、まちが元気になると思います。そのために、地域のみんなで力を合わせて貢献できればうれしいですね」とにっこり。きょうもアヒルのカーくんを連れて、田んぼや畑を行ったり来たり。土にまみれて忙しそうだ。