20104-9-1.JPG 団塊世代の定年退職者が第二の人生を迎えるにあたり、自然あふれる田舎で静かに暮らしたいと考える都会の人たちにとって、和歌山県は絶好の移住先。県も4年前から県内の市町村や民間団体と連携、「田舎暮らし応援県わかやま推進会議」を立ち上げ、県内へのIターン希望者の相談や農業研修、住宅紹介などをサポート。都会から近すぎず、遠すぎない日高地方も日高川町や日高町、美浜町が移住先として人気を集めており、新たなシリーズ「田舎暮らし」でその取り組みや移住者を紹介していく。
 空青し、山青し、海青し。佐藤春夫が自然豊かなふるさとをうたった和歌山には、マグロやタチウオ、シラスの魚介類をはじめ、梅、桃、しょう油、金山寺みそ、ラーメンなど、自然と伝統に育まれたおいしいものが多く、高野山や道成寺、熊野本宮大社など歴史と文化の見どころもあちこちにあり、京阪神の都会の人たちにとってはまさに癒しの楽園。定年退職を迎えた人たちは、新たな地で第二の人生を送りたいと考える人も多く、高速道路が延び、時間的に近くなった和歌山県はIターン先として関西ナンバーワンの人気となっている。迎える側も過疎が進み、地域の半数以上が65歳以上の高齢者となり、自治活動が立ち行かなくなる「限界集落」が増加傾向。ここに都会の人の移住が進めば人口増、地域の活性化にもつながることから、国は都市から地方への移住交流施策を進め、県も平成18年度に県内27の市町村と61の民間団体が加盟する「田舎暮らし応援県わかやま推進会議」を立ち上げ、Iターン受け入れに力を入れている。
 全国的に田舎暮らしの地として人気があるのは、アルプスの美しいロケーションが魅力の長野県、壮大な自然の北海道、沖縄県、千葉県など。京阪神からの移住が多い和歌山県は、首都圏からの移住先として人気の千葉県と傾向が似ており、どちらも都会と田舎の両方に家を持つ「2地域居住」が増えている。県の推進会議に加盟し、日高地方で唯一、移住専門窓口を設置している日高川町の移住・交流専門員、山下泰三さん(54)によると、田舎暮らし志向としては▽若い人が田舎で農業などの仕事をしたい▽定年退職後に田舎で静かに生活したいなどのパターンがあるが、日高川町への移住者のほとんどは 「定年後の第二の人生を田舎で」という人たち。2地域居住は週の半分ずつを都会と田舎で生活しているが、なかには妻は都会に残り、夫だけが単身で週の半分の田舎暮らしをするというケースも。山下さんは「奥さんは長年の都会生活で周りにたくさんの友達ができ、『いまさらその友達と離れて田舎なんかに住みたくない』といい、 ダンナさんは会社と家の往復だったサラリーマン生活で奥さんほど仕事以外の友達が多くなく、働きながら『定年後は静かな田舎暮らしを』という夢をふくらませていたんでしょうね。話し合いの結果、ダンナさんだけが都会と田舎を往復する夫婦や、夫婦で2地域居住しながらも、奥さんは都会に住民票を残したまま、ダンナさんだけが日高川町に住民登録されているケースもあります」と話す。
 日高川町は合併前の平成13年度、旧中津村が特定農地貸出法に基づく遊休農地を移住希望者らに貸し出す制度を開始した。「農地銀行制度」ともいわれるこのシステムは、高齢化や後継者不足で増加する遊休農地、耕作放棄地を移住希望者らに貸す際、行政が間に入って契約を交わす方法で、「遊んでいる農地をだれかに貸したいが、よその人に貸すのは不安...」という地主と借り主が、ともに行政を交渉窓口とすることで互いの不安を解消。この制度は双方に好評で、町内の業者が売り出した移住者向けの菜園付き住宅も人気があるという。
20104-9-2.JPG 2年ほど前からはこの菜園付き住宅を購入して10年以上が過ぎた移住者が80歳を超える高齢となり、1人暮らしを心配する都会の子どもに説得されて都会にUターンする人もちらほら。その際、その菜園付き住宅を新たな移住希望者が買うというサイクルも始まった。旧中津村時代から都市交流に携わってきた山下さんは、「夢とあこがれを持って移り住み、ここが終(つい)の住処とはいうものの、やはり骨を埋めるという人は少ないんでしょうかね。しかし、受け入れる側としては、何年かの間でも日高川に住んでいただくことで、人との交流ができ、耕作放棄地の解消や集落自治の活性化、地方交付税の増加などメリットはたくさんあります」。団塊世代の定住は地元市町村の医療費等の公的負担が大きくなるとの懸念もあるが、県の試算によると、3年間で500世帯、1000人が60歳で移住したという想定で、税収と公的負担の年間の差し引き額は、移住者1人あたり4万7000円のプラスになるという。