
10月のテーマは「宇野千代」。代表的な作品をご紹介します。
「生きて行く私」(毎日新聞社)
1982年発表の自伝的小説。山口県岩国市で生まれ育った幼少時の思い出に始まり、多くの恋愛、結婚の経験がつづられています。最初の結婚は、わずか13歳の時でした。
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母は私を風呂に入れ、髪を結ってくれた。鏡の中の母の眼に、きらりと涙が光ったのを見ても、私はまだ、自分がこの家からいなくなる、という実感がないのであった。
明るい、昼のように明るい月夜であったのに、仲人の夫婦は手に提灯をともしたのを提げていた。私と仲人の夫婦との三人の影がながく路上に落ちているのを見ても、私はいま、自分が嫁入りしているところだなどとは、信じられないのであった。(略)
その夜、二人は二つの寝床に列んで寝たのであったが、あのいつかの夕方、二人一緒に家までの道を歩いて来たときと同じように、一言の話もしないで眠ったのであった。(「月夜の花嫁」)


