今年は、きょう9月25日の月が「中秋の名月」。「花は盛りに、月はくまなきをのみ見るものかは」とは兼好法師「徒然草」の一節だが、やはり夜空に輝かしく君臨する「くまなき」月の眺めは格別である。この月を詠んだ句は枚挙にいとまがない◆最も有名なものは、俳聖・松尾芭蕉による「名月や池をめぐりて夜もすがら」だろうか。月を眺めながら池の周りを巡り歩き、夜を明かしてしまったという。そのほかにも「名月の花かと見えて綿畠」「名月に麓の霧や田の曇り」「名月や門にさしくる潮がしら」など名月を詠んだ句は数多く、「名月や座に美しき顔もなし」と句座に同席の連中をからかうようなユーモアを交えた句もある◆もう一つ、江戸時代の句で有名なものは小林一茶の「名月をとってくれろと泣く子かな」。かわいい子どものわがままを微笑ましく詠んだ句だが、一茶自身は授かった5人の子どものうち4人までを幼くして亡くしている。「やせ蛙負けるな一茶これにあり」は、病と戦う幼い我が子への応援の句であった。日高町志賀出身の徳本上人と縁の深い俳人で、「徳本の腹を肥やせよ蕎麦の花」の句もある◆近代の俳人では、筆者の特に好きな高浜虚子に面白い句がたくさんある。「名月や台上の人登れといふ」は、月明かりの下で舞台の上の人が自分に「登ってきなさい」と誘いかけているのだろうか。芋名月とも呼ばれる9月の満月を詠んだ「ころころと芋と月との別れかな」もある。また、明治35年9月17日、同郷の盟友・正岡子規の逝去に臨み「子規逝くや十七日の月明に」と厳粛な思いを詠んでいる◆春の桜、秋の月は日本人の詩心を誘う。時代が移っても、その美しさを美しいと捉える感性は健在であってほしいと願う。(里)