Moises(モイセス)というミュージシャンならみんな知っているアプリがある。好きな楽曲から、ボーカルやギター、ドラムなど欲しい音だけを取り出して聴ける音源分離の機能を持つ。

 例えば、80年代を一世風靡したロックバンド「BOØWY」の人気曲「B・BLUE」のベースを練習したいとき、このモイセスを使う。楽曲データをモイセスにアップロードすると、モイセスが各音源をバラバラに分離してくれる。そこからベースの音だけを消し、代わりに自分の弾くベースの音を重ねる。すると、まるで自分がBOØWYのメンバーになったよう。ヒムロックの歌声に布袋さんのギター、まこっちゃんのドラムが、自分の弾くベースと重なり合う。BOØWYのベーシスト・常松君になりきって、ご機嫌で練習ができるという仕組み。

 こうした音源分離の技術は、防災テックとしても大いに役立っている。例えば大雨で災害が起こったとき、風雨、サイレン、重機、ヘリコプターなど騒音が響く中、浸水した家屋や車、崩れたがれきの隙間などから聞こえる「助けて」の声を聞き逃さない。まずは複数のマイクを使い手がかりの音を拾って解析し、音がする場所や異変を突き止める。そして音源を分離して騒音を消去し、必要な声だけを極力クリアに浮き上がらせる。そんなシステムがあるそう。

 映像は、暗いと見えない、障害物の裏側をカメラで映しづらいなど弱点があるが、音は暗くても遮られず、障害物の裏側にも回り込む。マスターと営む音楽スタジオ「SSstudio」では、どんな隙間からも外にもれていく音をどう止めるかと防音に必死になっているが、遠くまで伝わっていく音の性質は災害救助の場面では役に立つのだ。(亜)