ここ数年の間にも著名な作家が何人も他界しているが、訃報にこれほど衝撃を受けたのは初めてかもしれない。当代随一の人気作家、第一線で活躍していた東野圭吾氏が23日、他界した◆初めて読んだのは「十字屋敷のピエロ」。本格物のセオリーを踏襲する古典的な雰囲気の作品だった。続いて高校野球をテーマとした「魔球」、バレエ界を舞台とした「眠りの森」、交通トラブルをテーマとした短編集「天使の耳」、ウインタースポーツ好きな著者ならではのスキージャンプをテーマとした「鳥人計画」などなど、多彩なテーマで読む者をぐいぐい引っ張ってくれる力のある物語を次々に読ませてくれた◆しかし、ずっと順風満帆で売れ続けていたわけでは決してない。「秘密」でブレイクするまでは何を書いても売れないとの葛藤を抱えていたという。特に、原発を扱った長編ミステリーでのちに映画化もされた「天空の蜂」についてはインタビューで「この作品はね、本当に自信作なんですよ。でも売れなかった」と述べ、まずは「売れる」、読んでもらえることを意図して作品を生み出す決意をしたという◆その戦略が見事功を奏してか、ブレイクしてからは確固たる地位を確立。以降は真に書きたいことを存分に書き、発表していったのだろう。あらためて全106冊の著作リストを眺め、粒のそろった多彩さに感じ入る◆自身の幼少時代について「本嫌いだった」と振り返り、そんな自分でも面白いと思えるような本を、と心がけて書いてきたという。多くの人に「面白い物語を読み進める楽しさ」を提供してくれた◆読書好きな人を飛躍的に増やし、我が国の読書文化を力強く発展させてくれた一人だったと思う。謹んでご冥福をお祈りしたい。(里)