
本著は「源氏物語」の現代語訳ではない。作家田辺聖子が「源氏物語」をベースに書いた小説である。しかし、わたしのように古文に疎い者でも「源氏物語」を充分堪能できる小説になっている。かつて与謝野晶子、谷崎潤一郎、円地文子、また瀬戸内寂聴等が「源氏物語」の現代語訳を試みているが、それとも違わない小説になっている。それは主人公の光源氏がいかに美しく恋多き男であったかが見事に描かれているからである。それは光源氏の次のような表現でも窺い知ることが出来る。
―白い衣のやわらかなのに、直衣をしどけなく着、脇息によりかかっている横顔は、灯りに照らされてなんとも美しい。―
この世のものとは思われぬ美しさの光源氏と、これもまた美しい姫君たちの恋模様が儚くもせつなく描かれているが、次のような異色の恋愛もあったりする。平安時代は通い婚で一夫多妻制なのだが、思わぬ年の差婚も存在した。以下、本文より。
―典侍(ないしのすけ)は五十七歳、源氏とは倍ほどの年の差である。(中略)
たわむれに言い寄ってみると、彼女は、不似合いな仲と思わぬのか、なびいてくる。こんな色ごとも面白くて、ついつい源氏はかかわりをもってしまった。(中略)
自分の年の半分にもならぬ若い恋人を得て、身も心もみずみずしくたっぷりとうるおい、命の華やぎにほてりながら、典侍(ないしのすけ)は、物思いも、それに比例して深くなっていくのである。―
このように、光源氏は多種多様の恋の狩人を演じたのであった。(秀)


