
最新の2026年上半期、第175回芥川賞・直木賞作品が先日発表されました。7月のテーマは「芥川賞作家」とします。
「記憶のなかに」(吉行理恵著、講談社文庫)
詩人・小説家の吉行理恵は猫をテーマとした小説「小さな貴婦人」で、1981年上半期の第85回芥川賞を受賞しました。2006年、66歳で他界。兄は小説家の吉行淳之介、姉は女優の吉行和子です。
本書は素朴で繊細な筆致で猫たちの姿を描いた、詩的な散文です。
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雲は食事を催促するとき、「わあー」と鳴きます。すると、私は、波の音を思い出します。私がテレビをつけると、雲は部屋から出て行きます。真夜中、私が澄んだ気持ちを取り戻し、机に向かっていると雲は現れ、本箱の上で私を眺めていますが、微笑んでいるみたいな眼です。「その眼 月みたいね」と話しかけると、三日月のように眼を細めます。トンボは、眠っている筈ですが、耳の穴だけこちらへ向けて、聞き耳を立てています。


