小中学校では1学期が終わり、夏休みがスタートした。夏は各出版社も若者らをターゲットに文庫フェアを行い、いろんなキャッチコピーが掲げられている◆文庫本を読むようになったのは中1の時。当時は200円台で一冊買えた。家の裏に頂き物のビールケースや空き瓶が置かれ、近所の酒店に持っていくと空き瓶は1本30円、ケースは確か300円ぐらいもらえたので、せっせと持って行っては書店に走って一冊買っていた◆当時愛読していたのは眉村卓のSFや、中学生に人気だった「コバルトシリーズ」の少女小説。一冊また一冊と買い集めては、友達と交換し合って読んだ。のちに少女小説家の枠を超え活躍した氷室冴子の初期作品、北海道のミッション系女子寄宿舎が舞台のコメディ「クララ白書」シリーズなど愛読したのが懐かしい◆「想像力と数百円」――コピーライター糸井重里氏の、1984年の作品である。「新潮文庫の100冊」のコピーで、今でも名コピーとして評価が高いという。各社文庫シリーズの今年の夏のキャッチコピーを見てみると、新潮文庫は「ページをひらくと、新しい扉がひらく」。集英社文庫は「きみの意外な1ページ」。講談社文庫は「約束は、やがて祈りとなった」。角川文庫は「本を開けば、世界は解ける!」◆父の蔵書だった梶井基次郎の短編集「城のある町にて」を手に取り、戦前の古い汚れた紙で作られた本なのに、開いてみるとその中に信じられないほど澄みとおった美しい世界が展開していることに驚いた。本というものの持つ魅力の真髄に触れたのはその時だった気がする◆小さな文庫本の中で、広い世界に思う存分、心を翔けさせることができる。それもまた一つの夏の冒険かもしれない。(里)


