
NHK大河ドラマ「豊臣兄弟〓」では小栗旬が織田信長を演じていますが、戦国期に日本に滞在していたイタリア人の船員の目を通じて独自の信長像を描いた小説をご紹介します。
あらすじ 16世紀後期、戦国時代。イエズス会の神父を日本へ送り届けたイタリア・ジェノヴァ出身の船員は、異国の地で天下を支配する「大殿(シニョーレ)」に魅かれ、友人への手紙に彼のことをつぶさに紹介する。
「私たちが席に着くと間もなく、正面の引き戸が左右に開くと、家臣団に囲まれた長身の人物が入ってきた。蒼白な、面長の、引きしまった顔立ちで、鋭い眼をし、右のこめかみがたえず病的にひくひくと動いているのが目についた。それが『彼』であることは一目瞭然であった。彼は部屋に入るなり、片手で家臣団に合図をいた。すると一瞬のうちに彼らはそこから退席した。あたかもその片手の一ふりが魔法の一撃ででもあり、彼らが瞬時にして?き消されたような感じだった」。
宣教師たちは「彼」に歓待され、岐阜に、そして京に滞在することとなる。ジェノヴァ出身の船員は、実力で天下を手中に収めつつある「大殿」が絶大な権力を持ち、快活に振る舞いながらも苛烈なまでの孤独を抱えていることを感じ取っていく…。
日本人の好きな戦国武将といったランキングがテレビで紹介されるたび、ダントツで1位となるのが織田信長です。私は学生の頃、山岡荘八の「織田信長」、司馬遼太郎の「国盗り物語」を立て続けに読んで信長さんのファンとなり、フィクション、ノンフィクション取り混ぜて15冊ばかりの関連本を買い集めたものです。とにかく調べれば調べるほど「ただ者ではない」人物で、世界史にだってこんな人は2人といない、とつくづく思え、小説では前述の2作品のほか、大佛次郎「炎の柱」、羽山信樹「第六天魔王信長」、津本陽「下天は夢か」、堺屋太一「鬼と人と」等々、いろいろと読みました。
中でも本書は、戦国武将の一代記というよりは、中世の価値観に捉われない一人の開明的な人物を、その孤高の内面をも含めて端正な文章で描ききった秀作であり、鮮やかな印象が残っています。
圧巻は安土城の夜の祭典。何百、何千というかがり火が安土山を赤々と照らし出し、その光の中で黒装束の「彼」が自ら、馬上からたいまつを高々と掲げてヴァリニャーノらに挨拶を送るのです。
(里)

