ここ数年、ドキュメンタリー風フィクション、いわゆるモキュメンタリーものを筆頭にホラー小説が盛り上がりを見せています。暖かい日も多くなってきましたので、今回はモキュメンタリー要素を織り込んだ、そして春らしいホラー小説をご紹介します。第二回最恐小説大賞を受賞した『森が呼ぶ』(宇津木健太郎)です。

 小説賞によって衆目を集め、より多くの人に周知したい。そんな著者の前文から始まるこの小説は、著者の友人である「私」が、ある村で体験した恐ろしい出来事を記録した手記でした。「私」は、突如大学を辞め帰郷した親友・阿字に会うため、奉森教という土着の宗教が取り仕切る犬啼村を訪れます。阿字は急死した姉に代わり不本意ながら奉森教をつかさどる家を継ぐことになり、親友である「私」に助けを求めたのです。村は二十年に一度の大祭期間中。そこで「私」は土着宗教の研究者である鵜飼教授と知り合います。

 教授と虫の研究者である「私」は、お互いが奉森教に対して疑問を抱いていました。「森を崇めながらも森に生息する虫を忌避する」ことに始まる、宗教としての成り立ちや構造に関するいびつさの数々。そうして得体のしれない不信感が募るころ、村で異様な殺人事件が起こります。

 奇怪な因習に支配された排他的な村。謎の儀式と殺人事件。ホラーやミステリを好む方なら一度は目にした、そしてつい目が引き寄せられてしまうシチュエーションではないでしょうか。奉森教や阿字家の謎が不気味な空気をかき立てる序盤は、「因習村」好きにとって期待通りの展開です。

 ところが中盤に差し掛かると、村人の死をきっかけに急激なジャンル転換が発生します。それまでの不穏な静けさが嘘だったかのように、派手で猟奇的な展開が待ち受けているのです。横溝正史からスティーブン・キングへギュッと舵をきられるような感覚ですが、急展開の中で前半の違和感が次々に埋められる疾走感は、きっと心地よく感じることでしょう。振り落とされずに読み進めば、衝撃のラストを目にすることができます。

 後半は生理的なおぞましさがふんだんに盛り込まれているため、苦手な方は読破に覚悟が必要です。反対に、もっと没入感を高めたいホラー愛好家もいるはず。そんな方は春、目を覚ました虫たちに囲まれて読むことをおすすめします。

 御坊の図書館にありましたので、ぜひご一読を。(藤)