NHK朝の連続テレビ小説「ばけばけ」のモデルでもある、日本人以上に日本を愛した西洋人、小泉八雲=ラフカディオ・ハーンの「珠玉の作品」を集めた一冊をご紹介します。

 内容 夕顔の表紙絵が印象的な本書。中身は3章に分かれ、「天の川縁起」の章には6編、「蟲の研究」には「蚊」の1編、「日本お伽話」には5編が収められます。そして本書の白眉ともいうべき、小泉節子(セツ)夫人による「思ひ出の記」で締めくくられています。

 日本への恋文といっていいほどに、きめ細やかな日本への思いを書き綴った本書。幼少時から、父がなぜか怖い話や怪談、妖怪の本などをたくさん買ってくれたもので、今でも国内外の妖怪50体ほどの名前は空でいえるぐらいですが、中でも小泉八雲の本は怖いだけではなくなんとも詩情豊かで情緒があり、子供心にも強く惹かれました。濱口梧陵の「稲むらの火」の挿話も、「怪談」に収められていた「生神」で初めて知ったものです。

 本書を最初に読んだのは確かまだ20代前半頃。「天の川縁起」にみなぎる詩情にすっかりやられてしまい、あらためてハーンのファンになったのでした。

 「出雲では七月七日の寅の刻には誰もが起きていて、硯と筆を洗う。そして、家の庭で芋の葉におりた露を集める。この露は『天の川のしづく』と呼ばれ、新しく墨をするのに使われる。七夕祭の時には、友だちの間で互いに、新しい硯を贈り合うのがならわしだった」「夜の静寂にたたずんでいると、頭上の銀河がまさしく天上の川に見える。天の川の光り輝く流れのおののきが、秋風になびく水辺の草が見えてくるのだ」(「天の川縁起」)

 本書はあまり知られていない昔話やエッセイが収められていますが、特筆すべきは妻の小泉セツによる「思ひ出の記」。「ばけばけ」を思わせる夫婦の楽しい日々が回想され、亡き夫への限りない愛情を込めて「微塵も悪い心のない人でした」と懐かしんでいます。セツ夫人を呼ぶのにほら貝を吹いたり、夫人が買った琵琶法師の人形を机の上に置くと、それを見つけて「やあ、芳一、芳一」と喜んだり、他愛もない日常の描写が微笑ましい。亡くなる前後の描写は淡々としており、そこにかえって深い悲しみ、深い愛情がふつふつと感じられるのです。

 いかに愛すべき人物であったか、この一編で、しみじみと心に染み入るほどよく分かります。(里)