李相日監督の映画「国宝」がアカデミー賞の国際長編映画賞など2部門で、最終ノミネート作品の候補リストに入った。邦画の実写作品としては22年ぶりに興行収入記録を塗り替え、封切りから半年が過ぎたいまも公開が続いている。

 一見地味な古典芸能の世界を描きながら、これほどの大ヒットの要因は作品の完成度の高さであるのはいうまでもないが、何より俳優陣の演技が素晴らしかった。主人公喜久雄役の吉沢亮さんとライバル俊介を演じた横浜流星さんの舞台シーンは鬼気迫り、本物のドキュメンタリーを見ているようだった。

 血筋と才能、生まれも育ちもまったく違う2人の少年が出会い、ともに歌舞伎役者として切磋琢磨しながら成長していく。物語は極端ではあるが、至高を目指してひたすら稽古に打ち込み、自分を追い込んでいく姿は俳優吉沢亮そのものではなかったか。

 はた目にどれほどつらく苦しいことであっても、目指す高みに到達するまでの試練であるから、当の本人はまったくそんなふうには感じない。好きな人、好きなもの、その道を極めるうえで、たとえ命を捨ててもかまわない。それほどの覚悟を決めて臨んでいるということか。

 毎晩、寝る前に手から血を流しながら素振りを繰り返していた王貞治さんや、世界一の苦行といわれる千日回峰行を達成し、生き仏とも称される比叡山延暦寺の大阿闍梨も同じようなことをいっていたのを思い出す。

 目の前の仕事にため息ばかりの自分がつくづく情けないが、誰もがこの境地に到達できるわけでもない。吉沢さんは演技に対し、まさに死ぬる覚悟を持った稀有な役者なのかもしれない。(静)