
11月のテーマは「芸術の秋」。美術部の高校生たちの青春を描いた氷室冴子の初期作品をご紹介します。
「さようならアルルカン」(氷室冴子著、集英社文庫)
ジブリ作品としてアニメ化された「海がきこえる」等の著書がある氷室冴子。本書はみずみずしい感性で揺れる少女の心を描いた短編集です。
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私はふっと足を止めた。百号の大きなカンバスがむきだしのまま、掛かっていた。(略)
その絵は、全体が藍色とグレーの混合で、右上に満円の赤い月があった。ビロードのような厚みのある月で、何かを貼りつけたのかと思い、近よってよく見ると濃い橙色と赤の点描であった。
そして左下方、ちょうど月と対角線上に、月の四分の一ぐらいの大きさの赤い毬を持ったピエロが、糸の切れたマリオネットのように力なく立ちつくしている。化粧された目は虚空をみつめている。(略)画面から浮き出ているような月は、冴え冴えとした孤独を表し、月のような毬を持つピエロは、孤独をもてあましている頼りなげな人間のようだ、と私は思った。


