スマホやインターネットもなかった30年ほど前、取材先で「北海道にゴキブリはいるか、いないか」の話になり、札幌市役所へ電話をかけて単刀直入、「すいません、北海道にゴキブリはいますか」と尋ねたことがある。

 相手は女性のベテラン職員。ちょっと笑いながらも真面目に、「そのご質問はときどきいただきます。北海道は寒いので、和歌山と比べると数は少ないですが、いることはいますよ」と教えてくれた。

 自分は子どものころから苦手で、台所やリビングで視界の隅を横切られると、心拍数が一気に上がる。動きを止めたヤツに気づかれぬよう、静かに武器(日高新報)を手にとり、仕留めようとした瞬間、カサカサカサ…。「うわぁっ」と思わず声が出ることも。

 映画「エイリアン」の宇宙船航海士リプリーではないが、あの黒く光る湿った見た目、予測できない素早い動きは恐怖でしかない。なぜこんなに恐ろしいのか。先日、テレビで虫好きの専門家が「周囲の大人やメディアによる刷り込みが大きい」と指摘していた。

 だれでも子どものころは虫が好きだが、ゴキブリやクモは毛嫌いする大人の反応、殺虫剤のCMなどを見るうち、気持ちの悪い嫌われ者というイメージが刷り込まれる。恐怖が高まれば、実際にはいないのに、「いま、足下で何かが動いた気がする」ようになる。

 こうした認知バイアスの拡大が懸念されるのがクマ騒動。連日、これだけ大々的に報道されると、家の近くに出没しても不思議はないという気にもなる。全国的に襲われて命を落とした人も多い。楽観しているわけではないが、怖さのあまり、山で黒いものが動くだけで「出た!」となったケースもあるかも。(静)