
10月のテーマは、NHK朝ドラ「ばけばけ」のモデル小泉八雲、本名ラフカディオ・ハーン。小中学校の図書室などに備えられていた偕成社の全集に収められている、怪談ではない随筆からご紹介します。
「生神」(小泉八雲著、平井呈一訳、偕成社ジュニア版日本文学「怪談」所収)
戦前は道徳の教科書にも載り、有名になった「稲むらの火」の挿話。広川町のこの史実を、ハーンは1編の小説に仕上げました。
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村は、見渡す限り影も形もなくなってしまっていました。(略)入り江にそってあった人家のうち、わずかにその残骸の見えるのは、はるか沖のほうに浮いたり沈んだりしている、わらぶき屋根がふたつあるばかりでした。(略)やがて浜口老人のしずかな声がきこえました。
「わしが稲に火をつけたわけは、これだったのじゃ」
いまのさきまで村の長者だったかれが、いまは村いちばんの貧しさになって、そこに立っていました。かれの財産は灰になってしまったのです。そのかわりに、その犠牲によって、四百のいのちは救われたのです。


