10月のテーマは「ハーン」。NHK朝の連続テレビ小説「ばけばけ」のモデルとなったラフカディオ・ハーンの著作を紹介します。

 「怪談・奇談」(ラフカディオ・ハーン著、田代三千稔訳、角川文庫)

 ハーンが採集した怪談15編、奇談27編を収録。天野喜孝が雪女をモチーフに描いた表紙絵が印象的です。最も有名な怪談の一つ「むじな」をご紹介。むじなはアナグマのことで、狸や狐のように人を化かすと信じられていました。

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 女がたったひとり濠端にしゃがんで、さめざめと泣いているのが目にとまった。(略)

 「まあちょっと…お女中―お女中」…すると、その女は、くるりと向き直るなり、袖をおろして、片手でつるりと顔をなでた。―見ると、女の顔には、目も鼻も口もないのだ。―きゃっと叫んで商人は逃げ出した。(略)
「へえ〓…その女が見せたというのは、こんなもんじゃなかったんですかい」と大声で言いながら、蕎麦屋は、自分の顔をつるりと撫でた。と、その顔は、まるで玉子のように、のっぺらぼうになった。