「匙なめて童楽しも夏氷」山口誓子――中学校の国語の教科書で知った夏の俳句。暑さをすっと忘れさせてくれるような楽しさ、爽やかさのある十七文字である◆8月も終盤、暦の上ではとうに秋になっていながら、気温は連日のように真夏日と猛暑日の間を行ったり来たり、本当の秋はまだまだ来そうにない。季節感をいのちとする俳句作品で涼を感じさせてもらおうと、調べてみた◆好きな作家の一人、文豪夏目漱石に入道雲を詠んだ印象的な2句がある。「雲の峰雷(らい)を封じて聳えけり」。雲の峰は入道雲のこと。不穏さを含みながら堂々たる存在感の自然現象。「雲の峰風なき海を渡りけり」では、そんな壮大な入道雲が滑るように、大海の上を移動していく。暑さを忘れる爽快感である。漱石には「苔清水天下の胸を冷やしけり」という涼しげな句もある◆その親友で若くして亡くなった正岡子規の句「夏嵐机上の白紙飛び尽す」。病床にいて精力的な執筆活動を続けた子規。室内に居ながら感じた自然の大きな力の前にぼうぜんとする姿が浮かぶ◆「滝落ちて群青世界とどろけり」水原秋桜子。和歌山県の名瀑、那智の滝を詠んだ句という。群青は紫を帯びた深い青色で、「青の集まり」といった意味。夜空や宇宙に通じる、神秘を感じさせる色である。この句から、秋桜子の命日である7月17日は群青忌と呼ばれる。秋桜子には「誰も来て仰ぐポプラぞ夏の雲」の句もある。夏の雲でもう1句、「退院の握手を医師と夏の雲」阿部みどり女。この雲は希望をのせて軽やかである◆最後に若き俳人の現代作品。「飛び込みのもう真っ白な泡の中」神野紗希。激しい水の動き、爽やかな白い泡のイメージのおかげで、暑さも引く心地がする。(里)