7月、夏本番。暑さは年々増しているようです。今月のテーマは「涼」とし、涼しげな描写をご紹介します。

 「次郎物語 第三部」(下村湖人著、偕成社文庫)

 大正期を舞台とした、少年の成長物語。三部では次郎は中学生となり、生涯の恩師となる朝倉先生と出会います。次郎はある夏の日、深い心の悩みを抱えて朝倉先生宅を訪ね、木陰で話し合います。

  * * *

「しかし、少し喉が乾くね。麦湯(麦茶)のひやしたのがあるはずだから、君、とって来てくれないか」
「はい」

 次郎は風呂小屋をまわって台所の方に走って行ったが、間もなく奥さんと二人で何か楽しそうに話しながら帰って来た。奥さんは手製らしい寒天菓子を盛った小鉢と、コップ二つとを盆にのせて以ており、次郎は、一升入りのガラスびんを抱くようにして持っていた。ガラスびんからは冷たい雫がたれていたが、その中にいっぱいつまった琥珀色の液体をすかして、次郎の胸がぼやけて見えた。
「ここの方がよっぽど涼しゅうございますわ。やっぱり木陰ですわね」