御坊市島のJA紀州地域本部の不知火(しらぬい)貯蔵施設では4月中旬から、低温貯蔵で熟成させた「後期デコポン」の出荷が始まっている。濃厚な甘みとマイルドな酸味が特長で、ジューシーな果汁が口に広がる。やはり、後期デコポンの美味さの秘訣は長期間の低温熟成だろう。貯蔵庫で果実を寝かせることで酸味がまろやかになり、強い甘みに仕上がる。

 この取材で、時間をかけることの重要性を改めて学んだとともに、大学時代の教訓が蘇った。

 大学4年生後半、筆者は卒業論文の執筆に追われていた。家族が箱根駅伝で盛り上がる中、終日パソコンと対峙。おいしいはずの雑煮も味がしなかったことを覚えている。卒論は日本の大学や修学を支える奨学金をテーマに執筆。学生に身近な題材を扱ったつもりだが、調べれば調べるほど、原稿は支離滅裂に。膨大なデータや情報を理路整然とまとめることができず、思い悩む日々が続いた。

 ある日、「もう、卒業論文は迷宮入りか…」と、頭を抱えながら担当教授が居るゼミ室のドアを叩いた。不出来な原稿に目を通しながら担当教授が一言、「原稿を寝かせなさい」。一晩寝かせることで文章の見方が大きく変わる。良い部分や加筆修正が必要な部分が見えてくるとのこと。「早く終わらせたい」という一心で取り組んでいた原稿も、時間をかけて見直すことでまとまりのない文章たちが少しずつ論文らしい顔つきになっていった。

 実際、何事もその最中は自身を俯瞰して見ることは難しい。そのため、距離や時間を置いて見つめ直すことが大切なのだ。

 後期デコポンが忘れかけていた恩師の言葉を思い出させてくれた。(丸)