訳者は村上春樹である。

 あとがきで村上氏はこのように書いている。

 二年ほど前、ポーランドを旅行しているときふと立ち寄った書店でこの本を見つけた。裏表紙には次のように書かれていた。

 「文学史上最も大胆不敵な強奪計画が実行された。場所はプリンストン大学図書館の地下金庫だ。時価二千五百万ドル(値段がつけようもないと言うものもいるだろう)、フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』の直筆原稿が強盗団によって忽然と消えてしまった。FBIの精鋭たちがこの難事件に立ち向かい、これに協力を惜しまなかったのがスランプ中の新鋭女流作家のマーサー・マンだった」。

 村上氏は早速この小説を買い求めた。ヨーロッパ旅行中に読了すると即座に翻訳すると決めたのだった。
 
 物語はポートランド大学のマルチン教授が、プリンストン大学を訪れるところから始まる。彼はフィッツジェラルドの研究者だった。プリンストン大学図書館の地下金庫にある「グレート・ギャツビー」の生原稿を見せてもらうために訪れていたのだ。

 フィッツジェラルドは深酒がたたり四十四歳で亡くなったが、彼の愛娘によりその生原稿は母校のプリンストン大学に寄贈されていた。

 マルチン教授は、実は高額美術品を専門に狙う強盗団の一員だった。目的は「グレート・ギャツビー」を盗み出すための下見である。

 彼が訪れた一週間後、強奪は行われた。厳重なセキュリティをかいくぐり強盗団は見事「グレート・ギャツビー」を盗み出したのである。強盗団は五名。そのうちの二人は前科者でFBIのファイルにあり間もなく二人は逮捕された。しかし残りの三人は行方を眩ます。その間に、「グレート・ギャツビー」の生原稿は、美術品や高額な稀覯本愛好者の間を転々として移動。やがてブルース・ケーブルという書店経営者の手に渡った。彼は稀覯本の収集家でありまたこれらを販売する闇のブローカーでもあった。フロリダの高級リゾート地カミーノ・アイランドに彼の書店と自宅があった。彼はここで優雅に暮らしていたのだ。

 FBIはその男が怪しいと目星をつけ、ここへ、女流作家マーサー・マンを送り込んだのである。密偵としての女流作家は「グレート・ギャツビー」を奪い返すことができたのか?(秀)