今週は夏休みを前に、小中高校生にオススメの本を紹介ということで、戦争文学を超えた名作でこれまで何度か映画化もされている「ビルマの竪琴」をご紹介したいと思います。

 物語 終戦後、復員してきた部隊の中に、雰囲気の明るく楽しそうな一隊があった。彼らは若い音楽好きな隊長のおかげで、苦しい時、つらい時も皆で合唱をしてきたのだという。若い隊長が弟のようにかわいがっていた22歳の水島上等兵が、いつも伴奏を担当。現地人のようによく日に焼け深く澄んだまなざしをした、勇敢で穏やかな若者だ。音楽の天分があったと見えて自作の竪琴で自在に編曲し、合唱を支えた。

 敗戦を知らされ、イギリス軍の捕虜となった一団。近くの三角山に日本兵たちが立てこもり、どうしても敗戦を受け入れず戦い続けているのだが、隊長は彼らを説得する役目を水島に託した。水島は竪琴を手に、隊に別れを告げて三角山に向かったが、それきり何カ月経っても帰って来ない。食事ものどを通らないほど心配する隊長や隊員ら。やがて、水島にそっくりのビルマ僧が、彼らの前に姿を現す…。

 この深い感動を呼ぶ物語にモデルはなく、何人もの教え子を戦争で亡くした著者が鎮魂の思いを込めて生み出した物語です。ノンフィクションではないところが素晴らしいと私には思えるのです。そこには人の祈りから生まれ、人の心に受け継がれて永遠に生きる「物語」の持つ生命がある、と。それは事実を超える、人の心の真実の持つ底力なのでしょうか。(里)