御坊市で開かれた23年度第4回市民教養講座を取材。講師のジャーナリスト池上彰さんは、テレビでおなじみの明快な語り口調で、ガザの武力衝突の背後にある事情を説き明かしてくれた◆一般人、特に子どもに多くの犠牲が出ていることが世界の人々を憤激させているのに、欧米諸国はなぜイスラエルを強く非難しないのか。それを知るにはキリスト教の成立の歴史を理解する必要がある◆キリスト教が広まる過程で、イエスを十字架にかけたピラト総督の子孫としてユダヤ人への差別意識が生まれた。職業が制限され、誰もが嫌がる高利貸しぐらいにしかなれず、一生懸命その職に励んだので裕福になった。土地を持つことを許されず、誰にも奪われない財産として教育を大切にした。歴史的な環境の結果としてユダヤ人に優秀な人物が多数出たのであって、「元々優れた民族、劣った民族などない」と池上さんは強くいわれた。民族の優劣を決める思想がナチスドイツの恐ろしい所業を生んだ◆欧州諸国が贖罪意識から「ユダヤ人に安住の地を」と考えるのは自然な流れだが、そして為されたイスラエルの建国はそこに暮らしていたアラブの人々の激しい反発を招き、長きにわたる新たな戦いの火種となった。状況を一方からでなく複数の方向からみる視点があれば、こうはなっていなかったのだろうか◆教養とは知識の応用力であると、池上さんは言われた。断片的な知識だった点をつなげて線へ、幾本もの線の関係を同時に見通せる面へ。さらに時間の作用をも視野に入れ、世界の行く末を正しく見晴るかす視座を多くの人が持つ。そんな局面を、世界そのものが求めている。(里)