7月は、七夕にちなんで「宇宙」をテーマとします。今週は、アメリカのSF作家の短編集から。

 「火星の足跡」(レイ・ブラッドベリ著、仁賀克雄訳、徳間文庫「火星の笛吹き」所収)

 映画化された「火星年代記」や「華氏451度」などの長編、「ウは宇宙船のウ」「スはスペースのス」などの多くの短編集を世に出し、自由奔放な想像力と抒情的なセンスで宇宙や未来についての物語を紡いだ作家。映画「白鯨」の脚本も担当しました。

 本書は、訳者がパルプマガジンから単行本未収録の作品を拾い出して翻訳したもの。隠れた名作がそろっています。

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 夜空の下、かれらは小さな焚火を囲み、おしゃべりに興じながら、六度目の夕食をとった。宇宙を超えて、はるかな旅をしてきた銀色のロケットの上方であかりが輝いた。青い山なみの彼方から、その焚火は、澄んで風もない火星の空の下、火星の長い運河のほとりに落ちた星のように見えた。(略) 

「ここには風も何もない。四季も、雨も、嵐も、何もない。(略)一万年前にだ。それ以来ずっと彼女はここにいる。(略)風もなければ、雨もない。だから足跡は彼女が印した日そのままの型で、たった今つけたように真新しく見えるんだ」