
出荷の最盛期を迎えた千両。赤くつやつやした実が上向きに付くことから、縁起の良い植物で正月用の飾りとして長く親しまれてきた。印南町真妻地区では1950年ごろから栽培が始まり、今では西日本の一大産地として知られている。「真妻の千両」ブランドは市場でも人気で、赤と緑の繊細なコントラストが高い評価を得ているが、地域の高齢化が進む中で後継者不足が課題となっている。
名前の由来は、同じサクラソウ科の木「万両」との比較から。千両の実は葉の上にまとまって付くが、万両の実は葉の下に垂れ下がるようにたくさん付く。万両より実が少ない見た目から、「千両」という名前になったといわれている。
千両は50~100㌢の低木に葉と実からなる房をいくつか付けて成長する。その実の数や房の数、丈の長さによって出荷の等級も変わる。最も上の「特上級」は、一つの房に25粒以上の実があり、房の数は10以上、丈が100㌢以上が条件。真妻は昼と夜の寒暖差が大きいため葉が濃い緑色になり、赤い実がよく映えることから、真妻産の特上級はその昔、市場で一箱40本入り5、6万円の高値が付けられていたそうだ。写真の千両は「特級」で、一つの房に20粒以上の実、房の数が7以上、丈が90㌢以上が条件。特上級や特級は年にそれほど多くできないという。
そんな千両だが、近年は地域の高齢化に伴い、生産者の減少が課題。JAを通じて出荷している農家は14戸で、ほとんどが70~80代。ほかにも個人で出荷する農家はいるが、50戸にも満たない。
崎ノ原の森口詠士さん(68)は、元町職員で、在職中の1990年から栽培を開始。つい1年半前まで兼業農家だった。千両の栽培について「手間やコストもあまりかからず、自分のペースでできるのがいいところ」という。就農を目指す若い人もチャレンジしやすいが、若い人たちの間で千両という作物があまり知られていないのも現実。「若い人の認知度を上げ、やってみようかなと思う人が出てきてくれたらうれしい。そうして『真妻の千両』ブランドを守り続けられたらいいですね」と期待している。