「男性として最年少の直木賞受賞作家」というキャッチフレーズに収まりきらない多彩な活躍ぶりを見せる朝井リョウ。直木賞受賞作品のアナザーストーリーズを一冊にした短編集をご紹介します。

 物語 とある高校、卒業を控えた3年生によるバンド。突発的に校内でゲリラライブを決行しては先生に絞られていた。曲作りを担当している神谷光太郎は、あるミュージシャンへの憧れから、ある大学を志望校と広言している。入試を控え、その前に卒業式がある。バンド仲間達ともこのままではいられない。光太郎にはそのほかに、クラス内に気になる一人の女子がいた。彼女の名は荻島夕子。彼女は毎週水曜はいつも、南階段を掃除している。屋上に続く南階段を。英語が得意で優等生で、何事にも丁寧な彼女に、光太郎は「俺に英語教えてくんない?」と近づいていく。(「水曜日の南階段はきれい」)

 「意識高い系」の行動派女子学生、小早川理香は姉と2人暮らし。しかし姉はもうすぐ恋人と暮らすために部屋を出て行ってしまう。高い部屋代を一人で払えないと、ルームシェア相手を物色。ターゲットに決めた朋子は体験型シチュエーションドラマにハマっており、そのドラマに登場する部屋のインテリアを完璧に準備する理香だが…。(「それでは二人組をつくってください」)

 「何者」は、会話体の軽快な文章で流れるように話を進めていきながらも、クライマックスの鮮やかな視点の転換で読者を鋭く刺してくる、ある意味非常に後味の悪い話でしたが、その「キャラクターズ・ヒストリー」的な本書はそれとはまったく印象が異なり、比較的心地よく読めました。幾つかの話は、読後感が爽やかですらあります。一人一人の歴史を掘り下げるという作業は、著者に、彼らへの温かい視点を呼び起させたのかもしれません。「何者」を未読の人は、初めに「何様」を読んでから、それぞれの登場人物が一堂に会する「何者」を開いてみるのも面白いかも。(里)