エスキースとは、絵画用語で最終的に完成するはずの絵や設計図などの構想をまとめるために作成される下絵のこと――。

 物語 オーストラリアのメルボルンに留学中の女子大生レイは、バイト先の日本人の先輩ユリからバーベキューに誘われ、それに参加する。そこで現地に住む日系人のブーと出会う。レイとは対照的にブーは明るい性格だったが、留学生が大学でのんびり過ごしている様を見て「竜宮城なんだ」と無表情でつぶやく。それを聞いたレイはそのことに引っかかり、徐々にブーに惹かれていく。

 その後、二人はデートを重ね、日本に帰国するまでの期間限定の付き合いを始める。

 そんなレイが日本に帰国する日が来週に迫るある日、ブーから友達である画家の卵のジャック・ジャクソンの絵のモデルになってくれないかと頼まれる。躊躇しているレイに「エスキースだけでいい」と言うブー。説得され渋々、了承するレイは、赤いブラウスに青い鳥のブローチをつけてジャックのアトリエに出向く…。

 本書は4つの章とエピローグからなる短編集でそれぞれ主人公が違います。章ごとでトマトジュースやカワセミ、赤鬼と青鬼など「赤」と「青」にまつわるものが登場します。

 そして、ジャック・ジャクソンが描いた「エスキース」というタイトルの絵画も登場。それぞれの主人公にかかわっていきます。

 絵画にまつわる話ですが、それに関する知識が無くても面白いです。読み始めは、以前にも紹介した青山美智子さんの作品「お探しものは図書室まで」と違って少し暗い印象かと思いましたが、読み進めるごとに「赤」と「青」の色彩の雰囲気に引き込まれました。

 2022年本屋大賞では前回に続いて惜しくも2位でしたが間違いなくおもしろい作品だと思います。エピローグでのレイとブーと「エスキース」の結末も読後感最高です。(将)