東日本大震災で被災した福島県福島市の土湯温泉がⅤ字回復を見せている。

 その秘密は地熱バイナリー発電。沸点の低い特殊な液体を使うことで、通常の地熱発電よりも低い温度で発電することが可能という。通常の地熱発電は、他の温泉に源泉の枯渇などの悪影響を与えるが、バイナリー発電なら温泉に全く影響を与えずに済む。

 従来の地熱発電は源泉の温度が200度以上であることが必須であったが、バイナリー発電だと130度で十分。使用するのは沸点(沸騰する温度)が34度の代替フロン(HFE)や水とアンモニアの混合物など。

 しかも高温の温泉水が噴出する温泉地では、人用の温泉として使用できない50度以上の熱水は冷まして使用する必要があるが、バイナリー発電を用いれば70度~120度の高温温泉を使い発電した後、温度の低下した温泉を浴用に再利用できるので、一石二鳥でもある。

 先述の土湯温泉では、400㌔ワット級の小型発電所が2015年から稼働しており、約900世帯分の電力をまかなっている。もちろん、温泉の成分も泉質も変わることはない。発電した電力は1㌔ワット40円で売電していて、年間約1億円の収益になるという。その収益はバス定期代の無償化などの地域支援に利用されており、地域住民に還元されている。さらにバイナリー発電の見学に年間約2500人訪れていて、その存在だけでも観光資源になっている。衰退した温泉街を救う、モデルケースになっているのだ。

 さらに廃業した温泉施設の再利用も進めていて、カプセルホテルや地域交流拠点などになっている。このように知恵を絞り本気になれば、地域振興はいくらでもできる気がする。(也)