1335年、鎌倉幕府滅亡後の建武の新政下、北条高時の遺児時行が幕府再興のため挙兵し、鎌倉を落とす。このいわゆる中先代の乱に対し、京の足利尊氏は後醍醐帝に拝謁、鎌倉奪還のために征夷大将軍任官と出征の許可を願い出る。

 しかし、後醍醐帝はその気持ちに理解を示すも、武家政権のトップである征夷大将軍への任命と出陣を許さない。尊氏はこの場をいったん引き下がるが、続く一門敗走の報せについに決断。勅状を得ぬまま時行討伐に出陣する。

 義を見てせざるは勇なきなり。この尊氏葛藤のくだりは大河ドラマの傑作「太平記」の最大の見どころの一つであり、皆によき世をつくりたいと願う尊氏の心根は、尊氏の強大な武力と政治力、幕府再興を恐れる帝に届かない。

 尊氏の時代から700年近くが過ぎ、日本はいま、岸田首相が「未来選択選挙」と名づけた衆院選がスタートした。和歌山3区には前職と新人3人が立候補し、31日の投票に向け、それぞれが自身の国づくりをアピールしている。

 選挙はよく戦国時代の戦にたとえられるが、いまの時代は一定の年齢となり、志あれば誰でも自由に立候補し、一票を投じることができる。とはいえ、巨大な政権与党ともなれば、いくら力があっても個人の勝手な行動は許されない。

 派閥のしがらみ、出世争い、世襲…敵意と嫉妬、凄まじい闘争本能が渦巻く政治家の世界にあって、尊氏のように力はあれど、総裁選や総選挙では推薦人集め、公認がかなわず、勝算は十分ながら出陣できないということもあるだろう。

 国家の平和と国民の命を守り、よき世をつくるために高い志と力を持つのは誰か。今回の選挙ではじっくりと、それぞれの主張に耳を傾けたい。     (静)