先日、美浜町三尾で、祭りなどで使う横笛「篠笛」制作に情熱を注ぐ長尾肇さんを取材した。

 一般的な篠笛は庶民の間で愛好されてきたもので、漆を塗って、割れ止めに籐を巻いた簡素な構造とデザイン。長尾さんはこの笛を作り続けるうちに、花や着物美人などの絵を描いたり、漆を重ね塗りして、金箔の研ぎ出しをしたりと美しい装飾を施すことを始めた。

 完成品が飾られている工房で目を引くのは、鮮やかに絵付けされた笛で、細い竹に描いた絵を立体的に彫り、色付けしている。1月から12月の季節の花12本がシリーズになっていたり、飾っている日本人形をモデルに忠実に再現したりと、制作は全てにおいてこだわり、現在制作中の小野小町は、十二単の細かな模様など、紙に書いた下絵も素晴らしいものだった。

 独学で始めたことだが、伝統工芸の職人のようで、音や見た目の美しさに妥協がない一方、印象的だったのが、新たな技術への探求心。今後は、竹を8つに割って固い表面が内側になるように組み直す「八割り返し」や貝から光沢のある真珠層を削り出して飾る螺鈿(らでん)細工に挑戦するという。

 長尾さんは、丹精込めて作り上げた笛をこれまで発表してこなかったが、同じ三尾に住む人が目を留め、その出来栄えの美しさに感動。「もっと多くの人にこの素晴らしさを知ってもらいたい」と心動かされ、筆者も取材させてもらうこととなった。伝統工芸品はこのように、見た人の心を揺さぶる作品が人から人に伝えられ、その技術が継承されて長い時間をかけ確立していくのかと思った。今年の秋は県内各地で国民文化祭が開催されるので、長尾さんの作品が展示される機会になってくれれば。(陽)