名作ドラマ「北の国から」で、主人公の黒板五郎を演じた田中邦衛さんが亡くなった。88歳。表舞台からは10年以上遠ざかっていたが、長男の純を演じた吉岡秀隆さんと同じく、いつかこの日が来ることを心のどこかで覚悟していた。
訃報が流れた翌日、追悼番組として「北の国から」の1987年のスペシャルが放送された。思春期を迎えた純の初恋、中学を出て東京に出ようとする純と五郎の確執。長距離トラックで旅立つ純と家族の別れが胸を搏つ。
日ごろはちょっとだらしなく、シャイで物静かな男だが、敵から家族と仲間を守ろうとするときには牙をむく。幼い純と蛍の目を通して五郎の人に対するやさしさ、強さが描かれ、ファンの胸に刻まれた感動のシーンは枚挙にいとまがない。
倉本聰さんは「こんな男がいてほしい」という思いを込めて本(シナリオ)を書き、富良野の厳しくも美しい自然の中で、不器用ながらもまっすぐに生きる五郎、力を合わせて生きる「小さな家族の、大きな愛の物語」をつむいだ。
映画監督の山田洋次さんは、「善良が服を着て歩いているような人だった。あんな俳優が、あんな日本人がいたことを誇りに思う」とコメント。黒板五郎はまさにはまり役、俳優田中邦衛の人柄そのままのキャスティングだったことを裏づける。
先の再放送ドラマで、五郎は東京へと旅立つ純に、「疲れたら、息が詰まったらいつでも帰ってこい。故郷へ帰るのは何も恥ずかしいことじゃない」とやさしく声をかける。五郎が大切にしたものは、常に家族の幸せだった。
この春も、多くの若者が就職や進学で住み慣れた日高地方を離れた。その一人ひとりに、いつでも温かく帰りを待っている家族がいるのだろう。(静)

