米国防省が今年4月、未確認飛行物体(UFO)の映像を公開して何やらUFOの信ぴょう性が高まっているが、もし筆者が「UFOが攻めてくるぞ」と言っても、まず誰も信用してくれない。ところが、時の菅義偉総理が同じことを言えば、全国民がどうすればいいか、真剣に対策を考えるだろう。UFOの例え話は突拍子もなさすぎるが、要は同じ言葉でも言う人の立場や経験、社会的な信頼度、知名度などによって言葉の持つ意味が変わってくるということである。

 先日、稲原中学校で防災学習があり、2011年9月4日の紀伊半島大水害で夫を亡くし、自身も九死に一生を得たという那智勝浦町の久保榮子さん(77)を迎え、体験談を聞いた。久保さんは氾濫した那智川の激流にのみこまれ、生死をさまよいながらも助かったことや、夫を亡くしたときの様子を克明に伝え、水害の恐ろしさを伝えてくれたが、こうやって経験談を語れるようになるには8年かかったという。

 そんな久保さんが繰り返し強調していたのは、「早く避難すれば大切な命をなくすことはなかった」ということ。あと社会面の記事では紹介しきれなかったが、早く避難しなかった原因としては▽水害の経験がなかった▽避難指示の意味を知らなかった▽町内放送が聞き取れない▽水の上昇が予想以上に速い▽避難指示自体が遅かった▽那智川沿いで水害の備えができていなかった――などと指摘。これらは住民だけでなく、行政にとっても大きな教訓となる。

 自分の経験を広く伝えるのが生きがいだという久保さん。重みのある彼女の言葉をしっかり胸に刻み、実践していくことが防災につながる。(吉)