何気ない一言が大騒動に発展することがある。1973年12月、愛知県の豊川信用金庫事件がその最たる事例かもしれない。同金庫に就職が決まった女子高校生に対し、別の女子高校生が「銀行は危ないよ。強盗が来るかもしれないから」と言ったのが事の発端。高校生が家に帰り、「信用金庫ってそういうことがあるの?」と親戚に相談、親戚もまた別の人に「あの銀行は危ないのか?」と聞き、最後には「豊川信用金庫の経営が危ないらしい」という話にエスカレート。デマは井戸端会議などでも広まり、「豊川信用金庫はもうすぐ潰れるから、すぐに預金を降ろさないといけない」と、短時間に約20億円の預金が一気に引き出された。情報が正しく伝わらなかったことがパニックを生んだことになる。

 情報とは「伝えられる内容」。インターネットの普及で誰もが多くの人に情報を伝えることもできるようになった。半面、情報が凶器となってしまうことがあり、先日、女子プロレスラーの木村花さんがネット上で誹謗や中傷を受け、遺書を残して自殺したという事件が発生した。お笑いコンビアンジャッシュの渡部建さんが複数の女性と不倫していたと報道された件では、ネットに多くの書き込みが寄せられ、中には関係のない女性までもが不倫相手としての扱いを受けてしまったという。

 ネット上では身分を名乗らない。それだけに責任ということから遠のいてしまう。「他の人も書き込んでいるから大丈夫」という心理も働く。そこがテレビや新聞との大きな違いといえるだろう。筆者も情報に関わる端くれ。その責任を常に感じながら取材に取り組みたい。改めて思った。(雄)