桜の季節も、今年は花見どころではない。ニュースは感染症の死者数や落ち込む景気の話ばかり。日本中が雨雲に覆われたような毎日が続くなか、志村けんさんの訃報には、かなり冷たい体感温度で衝撃を受けた。
卒業式や入学式が中止、または規模縮小となり、今月から東京で新社会人になるはずだった友人のご子息は入社式が延期、自宅待機の状態が続いており、「このまま内定が取り消されてしまうかも…」と不安を募らせているという。
新生活が始まる一方、定年で長く勤めた職場を去る人もいる。日高振興局では今年、8人が定年を迎えた。最後の日のお別れセレモニーのあと、1人にお話を聞いたが、「まだなんの実感もないですね」と笑っていた。
内館牧子の小説「終わった人」 の主人公、仕事一途で定年を迎えた壮介は、突如与えられた自由で膨大な時間を持て余し、次の仕事を探すも自身の学歴と職歴が邪魔をしてうまくいかず、「定年とは生前葬だな…」 とため息をつく。
定年を迎えて「俺はまだ社会の役に立てる」と確信していても、世間は自分が思うようには認めてくれない。エリートと呼ばれる人たちほど、引退後に苦しむ人が多いという話はよく聞く。
芸能人の志村さんに定年はないが、上司や仕事の相手からただ指示されるままに働いてきたわけではなく、日々、自らの意思で行動し、才能と努力で笑いを追求しながら、70歳まで第一線を走り続けてきたのだろう。
人はいくつになっても終わらない。が、若くして病気に負けることもある。予測がつかない未来に無用な不安を持つことなく、いまこの瞬間にやるべきことをやることが何より大事なのだとつくづく感じるこのごろ。(静)