和歌山県民文化会館で行われた「シネマシアター」で、市川崑監督「東京オリンピック」を鑑賞した。アジア初の五輪を克明に記録した、3時間近い大作である。当時「記録か芸術か」と大論争を巻き起こしたという◆競技場建設のため重機が古いビルを壊す映像から始まる。聖火がヨーロッパから中東、アジア諸国を渡り、人々の手を経て日本へ。聖火ランナーが広島を走り、沖縄を走り、東京を走る辺りで早くも泣きそうになった。そして開会式。晴れ晴れと心浮き立つ各国の選手入場。伝説のブルーインパルスによる、青空に大きく描かれる白い五輪。すべて実際の映像だと思うと胸に迫るものがある◆超望遠レンズで対象に肉迫する、その度合いは「スポーツ競技をここまでアップで撮れるのか」と驚くほど。ビキラ・アベベがゴール後スパイクを脱ぎ、その無残に皮の剥けた足が大写しになる。勝者のおたけび、輝く笑顔。マラソン棄権者の苦しそうな表情。給水所ではゆっくり立ち止まって3杯おかわりする選手なども撮られ、笑いを誘う。そして頻繁に映されるのは観客の生き生きした表情。懸命に手を叩いて応援する高齢女性。手をつなぎ合い、固唾を飲んで見つめる子供達◆結果や記録などまったく重視されない。そんなことより伝わるのは、世界中の人達がただ「スポーツ」という一つのことに熱中する、その喜びと興奮と感激。市川崑という一人の表現者が五輪という千載一遇の機会に出会い感動を形にした、紛れもない芸術作品である。数字だけでは伝わらないものを確実に後世に伝える、貴重な記録でもある◆最後には字幕でメッセージ。「人類は4年ごとに夢をみる。この創られた平和を 夢に終わらせていいものであろうか」。(里)


