みなべ町の千里の浜は、言わずと知れた本州最大のアカウミガメの産卵地である。ことしも5月に初めて上陸し、例年に比べて少ないが産卵も行われている。これから7月にかけてがピークになるという。年によって多い少ないはあるが、産卵地として維持されているのは、これまで多くの人がウミガメを守る活動を続けてきたから。浜の清掃活動、夜間のパトロール、産卵の見守り、人が眠っている夜から未明にかけて、まさに寝る暇を惜しんで地道に取り組んできたから。人と生物の共存のいい見本であろう。

 高校生のとき、同級生らで夜中に千里の浜で花火をしたりして遊んでいたとき、「すみません、ここはウミガメの産卵地で、花火はしないで、静かにしていただけませんか」と声をかけられた。初めてウミガメの産卵地だと知ったのもこのときだった。いまから30年近く前の話。バカ騒ぎしている若者十数人に一人で声をかけるのも勇気がいることだが、丁重でありながら堂々とした態度が印象的だった。思えばそのころはすでにウミガメの保護や調査活動が夜通し行われていたのだから、活動の息の長さに敬意しかない。

 ことしも学生ボランティアが千里の浜に来て、毎日夜通し保護と調査活動を展開している。大阪の専門学校生たちで、将来は水族館の飼育員を目指しているという。昼夜逆転の生活にも慣れたと笑う彼らによると、若かりしころの筆者らのように騒ぐ人も、マナーの悪い人もいないという。産卵場所には動物からの食害を防ぐために鉄製の柵を取り付け、ふ化して海に帰るまで調査を続けるという。豊かな自然を、動物を陰で守っている人たちがいることを忘れないでおきたい。(片)