今回紹介するのは今村昌弘の「屍人荘の殺人」。人気作家が絶賛した作品で、神木隆之介主演で映画化も進められており、年内の公開が予定されている。
 主人公は神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲。推理好きの会長、明智恭介が興味を持ったのは、脅迫状が届くなどのいわくつきの映画研究部の夏合宿。同じ大学の探偵少女、剣崎比留子の3人で映画研究部員やOBらが集まる合宿に参加するためペンション紫湛荘を訪ねる。
 ペンションに集まったのは管理人を含め14人の男女。それぞれ思惑を抱えながらも和やかに展開するストーリーだが、肝試し中にゾンビが現れるという急展開を迎える。ゾンビは近くで行われていたロックフェスの観客で、物語の途中にフェスで化学兵器のようなものを用いたテロ活動の描写があるので、彼らの犯行というのは読んでいて推測できる。
 数人がゾンビに襲われたが生き残った合宿参加者は、階段にバリケードを作りペンションに立てこもる。混乱と不安が続く中、それぞれの部屋で眠りにつくが、翌朝、1人が死体となって発見される。体中にはゾンビに噛みつかれたような歯形が残る。一方で、ドアには意味深なメッセージが残される。肉をかみ切った歯形からして人間の犯行ではないことがうかがえるが、一方で知能の低いゾンビが手紙を残すことは考えられない。考えを巡らせて推理する主人公たちだったが、それは連続殺人の幕開けに過ぎなかった。
 「〇〇荘の殺人」とよくあるタイトル、中身もよくあるミステリーと思ったが、ゾンビ登場には驚かされた。さらにそのゾンビを使いクローズドサークル状態をつくり出すという発想も面白い。その中で起こる連続殺人。読み進むにつれどんどん引き込まれ、一気に読んでしまいたくなる作品です。