真藤順丈著 講談社 1850円(税別)

平成最後の直木賞受賞作品を紹介します。沖縄返還までの20年、熱い日々の記録です。

物語 沖縄、米軍基地のある町コザ。「戦果アギヤー(戦果を挙げる者)」と呼ばれる若者達の暗躍が、町をうるおしていた。基地に侵入し、木材、食品、道具等の「お宝」を奪ってきては人々に供給する。土地の小学校も彼らのおかげで建った。

彼らを率いるオンちゃんは陽に灼けた肌、太陽のような笑顔で、「生還することが一番の戦果だ」と絶対に無茶はせず、皆を的確に統率する。まぶしいヒーローのあとを追いかけながら彼の親友グスク、弟レイ、恋人ヤマコの3人は夢中の日々を過ごしてきた。しかし運命の一夜、キャンプ・カデナ襲撃失敗のあとオンちゃんは突然消息を絶つ。狂ったように彼の行方を捜し求めるヤマコ、何か知っている男を捜すため自ら進んで監獄に入るレイ、グスク。だが手がかりは得られず2人は相次いで出所。グスクは警官、レイはヤクザ、ヤマコは小学校教員となり、それぞれの道を歩み始める。だがアメリカの存在は、島をあまりにも過酷な状態に陥れる。ヤマコの勤める小学校に、訓練中の戦闘機が燃えながら墜落。ヤマコは目の前で3人の教え子を失った。「こんなひどいことがあっていいはずがない」島人達の心の叫びを代弁し、現実を変えるべく運動に立ち上がるヤマコ。

そしてグスクのもとに、「伝説の戦果アギヤーが生きていて、米軍高官の暗殺を計画している」との噂が伝わってくる…。
先ごろ辺野古埋め立てについての県民投票があり、基地を巡る問題はニュースの焦点となっていますが、著者が受賞後に語った「沖縄に関して、今が旬だとかそういうことはない。常に日本人が考えるベき問題」との言葉が印象的でした。

底抜けの明るさを身上とする島が、地理的条件故にどんなに理不尽な状況に置かれたか、3人の主人公を追うことで実感的にわかってきます。どんなものも遠くにあれば小さく、近くにあれば大きく見える。沖縄以外に生まれ育った日本人にとっては遠い問題である基地の問題。沖縄の抱えてきた悲しみと痛みを、そこに生きる者の目と感覚を通じて、克明に描ききり、まざまざとそこにある問題として痛いほどに感じさせる。「オンちゃん」の行方にまつわる謎が一種のミステリーとして機能していますが、宮森小学校戦闘機墜落事件、コザ暴動と、史実が圧倒的な重みと迫力を持って登場人物とかかわってくるに到り、エンターテイメント小説の枠に収まりきらないずっしりした重みとボルテージの高さ、熱さが迫ってきます。

直木賞受賞で本作が多くの人の目にふれることになったのは、日本にとってよかったと思います。(里)