国保日高総合病院のがんサロン「ほっとステーションこもれび」は20日、大阪重粒子線センター事業部長の八木智司氏(54)をゲストに迎え、施設の概要や重粒子線治療の特性について説明を受けた。関西では兵庫県たつの市の県立粒子線医療センターに次ぐ2カ所目の重粒子線治療施設で、海外からも注目を集めている最先端医療。サロンでは保険適用されているがん種や乳がんの対応などについて質問が出た。

 大阪重粒子線センターは全国で6番目の重粒子線治療施設。大阪市中央区大手前、府庁と府警本部の間に建設され、大阪国際がんセンターに隣接する。ことし3月の開院から現在は保険診察を行っている。高エネルギーの粒子(ビーム)を作る「シンクロトロン」と呼ばれる加速器を使った治療は始まっていないが、今月末にも薬事審査が通り、来月中旬から患者の治療が始まる見通しとなっている。

 八木氏によると、シンクロトロンで加速された重粒子は最大で高速の約70%まで到達。粒子線はエックス線やガンマ線など従来の放射線とは違い、一定の深さでエネルギーのピークを迎え、その前後で抑えられる特性があるため、ピークの深さを体内の腫瘍の位置に合わせることで、腫瘍のみを集中的に狙い撃ちすることができる。さらに、患者の体内の腫瘍の形状に合わせて正確に当てるスキャニング照射システム、肺や肝臓など呼吸に合わせて動く腫瘍をリアルタイムで捉える最新の動体追跡照射システムにより、腫瘍の周囲の正常な組織への照射を極限まで減らすことができるという。

 切らずに痛みもなく、体にやさしい重粒子線治療は、切除できない頭頸部などのがんへの効果が期待でき、治療の回数・日数も少なくすみ、仕事や日常生活を続けながら通院で治療できる。

 重粒子線で治療できるがんは、頭蓋底腫瘍、頭頸部、肺(Ⅰ期非小細胞肺がん)、肝臓、腎臓、すい臓、前立腺、直腸がん術後再発、骨軟部腫瘍、子宮。このうち頭頸部、前立腺、骨軟部腫瘍はすでに医療保険適用されており、先進医療では照射技術料(照射回数を問わず314万円)が患者の自己負担となる。

 サロン参加者からは乳がんの対応はどうなっているのか質問があり、八木氏は「乳がんは問い合わせの中でも一番多い質問です。大阪重粒子線センターでは治療を行いませんが、現在、乳がんの治療の主流は外科的治療で、粒子線治療は千葉県にある放医研(放射線医学総合研究所)で治験を行っています。乳がんの治療ができない理由は、固定具が想定通りに機能しないことや、腫瘍の位置が皮膚表層に近いところでは重粒子線の力が強すぎ、皮膚への影響が大きいことなどがあるようです」などと答えた。

写真=サロン参加者に重粒子線治療を説明する八木氏